これもひとつの愛のカタチ
御堂の生活には無駄が多い。
無駄遣いしている、というわけではなく、そんなことに金をかけなくても、というものがかなり多い。
克哉が思う最たるは、生活関係、家事に関する項目だ。
多忙が一番の原因であるのはわかる。
仕事に没頭する男がひとりで暮らしていて、その上家の中のことまでやるのは無理だ。
しかしたまたまハウスキーパーやクリーニングの請求書を見た克哉は驚愕したあと、考え込んでしまった。
外食やケータリングですませることの多い食費も、あらためて計算してみると結構な額だということに気づいた。
克哉が一人暮らししていたときは、週末に掃除や洗濯をしていたが、ここではまとめて家事を片付ける、という生活をしていない。
御堂は克哉が家事をすることを嫌がるので、目に付くところでやるわけにはいかず、掃除に人を頼むのは仕方ない。
クリーニングもある程度は人の手が必要だが、細々したものは自分で洗ったほうが早いし、恥ずかしくもない。
他人に下着を洗われても平気な神経に、金持ちとはそういうものか、と妙な感心をしていた克哉だが、
洗濯機をまわすのが克哉だろうがハウスキーパーだろうが、干したり取り込んだりする姿を見せなければ、御堂には変わりないはずだ。
残るは克哉にとって最大の無駄と思える、食費だ。
ある程度は必要経費として納得する。
夜遅くまで仕事して、家に帰って自炊、など出来るはずもないし、御堂がそのへんの定食屋ですませる、などという姿も想像できない。
それでもケータリングしている何割かを、自炊か自炊したものを冷凍しておく、という形に置き換えることは出来る。
これまでも克哉は月に何回か、自炊の日を入れるように心がけていたが、
キッチンに立つ時間があるなら仕事の勉強か自分といろ、という御堂に逆らっているので、
食材を買うのはいつも一番近い高級スーパーで手早くすませていた。
しかし。
新聞に入っていたスーパーの折込チラシを眺め、その日、克哉は決心した。
今後は出来るだけ、庶民の値段で買い物しよう。
御堂にヘンなものを食べさせたくはないので、安かろう悪かろうなものは買わないが、同じ品質なら安いにこしたことはない。
自炊の回数をもう少し増やして、冷凍もしておこう。
御堂より早く帰った日などにしておけば、咎められることもない。
たとえ咎められたとしても、食に関しては健康に直結することもあり、譲るつもりはなかった。
本多が克哉と御堂の関係を知ったあと、家計の話になぜかなったとき、克哉が生活のなかから無駄を排除するよう日々頑張っている、
とつい語った。
「克哉…おまえ、主婦かよ」
本多が呆れ顔だったので、克哉は気を悪くした。
「なんで。収入多いからって、いらない金を使うことはないだろ?」
「そうだけどよ。意外にこまかいんだな、おまえ。
御堂はなんも言わないのか?」
「今はオレが生活費預かってるし、経費減らしたのは知らないと思う」
「余った金は?」
「御堂さん名義で貯めてる」
本多は思った。
こいつ、すげえ。
なにがすげえかわからないけど、とにかくすげえ。
御堂の感覚からすれば微々たる額の、しかしある意味克哉の愛の証でもある貯金が、毎月少しずつ増えている事実を、御堂が知るのはもっと先の話だ。
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